世界史的知識を活用して現代を理解する問題

問1 :現在でも憲法で「国王は、アミール・アル=ムーミニーン(※カリフのこと)であり、国民の最高の代表者であり、国民の統合の象徴であり、国家の持続と永続を保障する者である。」と定めている国として正しいものを記号で答えよ。

 

(ア)トルコ  (イ)モロッコ   (ウ)イラン (エ)イスラエル

 

 

世界史の業界では、カリフ制はトルコ共和国により廃止されたと理解されている。もちろん正しい。しかし、2014年6月にISのバグダディがカリフ制の復活を宣言するなど、カリフは、現代的な問題です。カリフという言葉を現代的に感じて欲しいと思い作問。もちろん、現代モロッコの政治体制は、教科書の範囲外です。そのため教科書範囲内の知識を活用して消去法で解いてもらうしかありません。(ア)(ウ)は、共に建国の経緯を考えると君主はいません。イスラエルも君主はいませんし、イスラームの称号を使うわけがありません。もっとカリフについて焦点化させたいですね。ということで第2問。

 

 

 

問2:2014年6月29日(ヒジュラ暦 1435年9月1日)にスンニ派過激派組織「イラク・レバントのイスラム国(ISIL)」が、指導者のアブー・バクル・バグダディをカリフと奉じるイスラム国(IS)の樹立を宣言した。

 

(1)2014年6月29日に宣言したのは、この日がムスリムにとって特別な日だったからだと考えられれる。なぜ、この日に宣言したのか説明しなさい。

(2)指導者のアブ・バクル・バグダディは、本名ではない。本名は、イブラーヒーム・ブン・アワドである。カリフ制を再興したとする組織の指導者が、「アブ・バクル」を名乗る意味を説明しなさい。

 

 

  現代のカリフを焦点化して作問してみました。ISの建国宣言は、今、思い出してもインパクトがありましたね。今日はラマダーンだと思って目覚めたら、イラクでカリフ制が復活してるわけですから。生徒も普段からヒジュラ暦を意識して生きて欲しいので、ラマダーン1日は絶対に生徒に伝えています。

 

 (1)は、もちろんラマダーン断食月・斎戒月)の初日でムスリムの宗教的感情が高まる日です。ヒジュラ暦併記で気がついて欲しい。(2)は、初代正統カリフの名前です。アブ・バクル・アル・バグダディ・アル・フッセイニ・アル・クレシとフルに名前を出すと混乱するので思い出しませんでしたが、「クレシ」の部分が「クライシュ族の血を引く」ことを示しています。本当に引いているかは分かりませんが、カリフの要件であるクライシュ族の出自を主張しているわけです。

 

   ただ、作問して分かりましたがイスラーム=テロのイメージを助長しそうな問題で使う気にはなれません。歴史的知識を活用して現代を理解する課題なんですけどね。

 

【参考文献】

池内恵イスラーム国の衝撃』

中田考『カリフ制再興』

ロッコ憲法